サイバーセキュリティ・スタートアップは比較的底堅く推移していた。ベンチャーキャピタルによる資金調達が低迷する中でもそうだったが、その勢いもここ数カ月で終わりを迎えた。
第2四半期のサイバーセキュリティ・スタートアップへのベンチャー投資は63%減の16億ドルに落ち込んだ。Crunchbaseのデータによる。資金調達額は第1四半期から前四半期比で40%減少し、2019年第4四半期以来の低水準となった。2023年上半期の資金調達額は前年同期比で60%減少した。
1億ドル規模の資金調達ラウンドの件数は、今年に入って67%減少し、33件から11件となった。そのうち第2四半期に実施されたのはわずか5件で、Blackpoint Cyber、ID.me、Cyera、Cybereason、Eagle Eye Networksだった。最高額はBlackpointの1億9000万ドルのシリーズCラウンド。第1四半期にはまだ見られた、SandboxAQの5億ドルの資金調達ラウンド、Netskopeの4億100万ドルの転換社債型ノートによる調達、Wizの3億ドルの資金調達ラウンドといった目を見張る案件は姿を消した。
この新たな厳しい資金調達環境の中、創業者たちはコスト削減とキャッシュバーンの抑制を模索しており、事業を停止せざるを得ないスタートアップも出てくる可能性がある。
Thomvest VenturesのベンチャーパートナーであるUmesh Padval氏は、「マクロ経済の逆風、利上げ、根強いインフレ、さらには複数のテック系銀行の破綻によって、2022年以降、サイバーセキュリティへの投資ペースは確実に鈍化した」と述べた。「ベンチャーキャピタルファンドは、顧客の支出減速の影響を受けている既存のポートフォリオ企業に注力しており、新規案件への投資を減らしている」
現在のVC市場で勝ち残るために必要なこと
ベンチャー投資家は長期的な視点を重視すると口にするが、市場が下落すると慎重になる傾向がある。今回も例外ではない。
しかし、逆張りのアプローチを取る意欲のあるベンチャー投資家にとっては、確かに興味深い機会がある。特に、バリュエーションがより妥当な水準になっているからだ。Padval氏は、「Zscaler、Palo Alto Networks、Fortinet、Cylanceのように、景気低迷期に設立された優れた企業はいくつもある」と述べた。
現在の市場でベンチャー投資家が注目している要素を紹介しよう。
生成AI
生成AIは、自然言語によるプロンプトによってサイバーセキュリティシステムをより使いやすくするのに役立つ。また、生成AI技術は攻撃の検知や防御にも活用できる。
Merlin Venturesのマネージングパートナー、Seth Spergel氏は、「私が見てきた限り、こうした案件は3つに分類できる」と述べた。「第1に、実際には有効なユースケースがなく、VCに好印象を与えるためにプレゼンテーションへ無理やり組み込もうとしているものがある。次に、有効な形で利用しているものの、その技術が製品の価値を実質的に変えていない案件がある。そして最後に、生成AIの能力を活用してまったく新しい種類のソリューションを構築できる企業がある。現在、最も関心を集めているのは3番目のタイプだ」
Spergel氏はさらに、「生成AIを使って調査結果を少し使いやすい形に要約するだけのシステムには、特に期待していない」と述べた。「しかし、まったく新しいデータソースから洞察を抽出し、これまで大規模には実行できなかった方法で手作業のプロセスを置き換えられるツールには、大きな関心がある」
競合より優れた製品を作る
ポイントソリューションは数多く存在する。しかし顧客はIT環境を統合しようとしている。そのため、スタートアップには差別化された製品が必要になる。
Dell Technologies Capitalのマネージングディレクター、Deepak Jeevankumar氏は、「あなたの製品は競合より10倍優れているか」と問いかけた。「顧客のサイバーセキュリティスタックに不可欠な要素としての地位を確立できるよう、製品ロードマップをどう調整できるか。これらは創業者が自問すべき問いであり、現在の市場を生き残るために投資すべき領域だ」
見過ごされている市場
資金が限られている状況では、見過ごされている市場に注力する方が容易な場合がある。特定のカテゴリーでは競争がそれほど激しくないからだ。ただし、解決すべき深刻な課題も必要になる。
Jeevankumar氏は、「生成AIがサイバーセキュリティ業界に与える影響、開発とセキュリティの交差領域、そして十分なサービスを受けていない地域や中小企業・中堅企業におけるサイバーセキュリティの強化に注目している」と述べた。
資金調達に成功したサイバーセキュリティ・スタートアップ
この厳しい環境で資金調達に成功したサイバーセキュリティ・スタートアップを4社紹介する。
Protect AI
資金調達日:2023年7月
調達額:3500万ドル
Ian Swanson氏とDaryan Dehghanpisheh氏は、2022年にProtect AIを設立する前、AWSとOracleで大規模なデータサイエンスシステムに携わっていた。
Dehghanpisheh氏は、「人工知能アプリケーションや機械学習システムを最も高度に導入、展開、構築している企業でさえ、既存のセキュリティエコシステムや既存のML・MLOpsベンダーが対処できていない重大なセキュリティ脆弱性を抱えていることが、はっきりと分かった」と述べた。
あるケースでは、同氏とSwanson氏は、機械学習システムで発生したデータ侵害が、同じ業界の3社の顧客に悪影響を及ぼしたことを確認した。調査を進めると、既存のポリシーではその問題に対処できず、検知する能力もないことが分かった。
2人は支援となるソリューションを探したが、市場には存在しなかった。Dehghanpisheh氏は、「それが私たちにとっての『ひらめきの瞬間』だった」と語った。「こうしたリスクと脆弱性が現実のものであり、MLOpsを越えてセキュリティを組み込む必要があると分かった。それがML Security Operations、つまりMLSecOpsにつながった」
Protect AIのプラットフォームはAI Radarと呼ばれ、AI開発者、MLエンジニア、アプリケーションセキュリティ(AppSec)専門家を対象としている。この技術により、MLパイプラインにおけるデータ漏洩やモデル汚染などのセキュリティリスクを特定し、修正できる。
AIへの関心が高かったことから、Protect AIの資金調達は比較的スムーズに進んだ。Swanson氏は、「多くのベンチャーキャピタル企業が私たちに声をかけてきたため、誰と組むかを選べる立場にあった」と述べた。
SAVVY
資金調達日:2023年7月
調達額:3000万ドル
SAVVYは、SaaSアプリケーションの導入に伴って増大する企業のセキュリティ課題に取り組んでいる。リスクのある操作が行われた瞬間にユーザーへ介入し、より安全な代替手段を推奨できるシステムだ。
SAVVYのCEO兼共同創業者であるGuy Guzner氏は、「この革新的なアプローチは、常に存在する『人間』という攻撃対象領域への対処と、SlackやTeamsなどのブラウザーや業務アプリ全体で企業を保護することの重要性を認識する投資家の共感を呼んだ」と述べた。
同氏は2度目の起業家であり、その経験がSAVVYの構築と成長に役立った。
資金調達プロセスでは、これまでの経験が重要な役割を果たし、強固なネットワークを活用できた。
Guzner氏は、「ただし、それは事業評価における近道や妥協を意味しなかった」と述べた。「Workforce Security Automationプラットフォームの価値と可能性を、徹底的に示す必要があった。VCはパートナーによる投資委員会で合意形成を行いながら、慎重に当社を評価するという、体系的なプロセスだった。最も有望な投資先を選び、本当の市場の勝者を見極めようとしていたことは明らかだった。このレベルの精査と検討は、初期のSAVVYシードラウンドで経験したFOMO主導の殺到とは対照的だった。当時は、ビジネス全体が概してそのような状況にあった」
PingSafe
資金調達日:2023年7月
調達額:330万ドル
Anand Prakash氏は、世界で最も高く評価されているホワイトハッカーの1人だ。長年にわたり、Twitter、Meta、Uberなどの企業のシステムで深刻な脆弱性を発見してきた。
Prakash氏は、「バグバウンティに取り組む中で、企業のクラウドインフラにアクセスしなくても、各社のクラウド環境で悪用可能なさまざまなバグを次々と発見していた」と述べた。「これは、そうした企業が導入していた従来のクラウドセキュリティツールが機能しておらず、現実の脅威を可視化できていないことを示していた。組織が自らを守るには、攻撃者の視点で考え、すぐに実行可能な重要項目を共有できる何かが必要だ。だからこそPingSafeを構築した」
同社の中核となるのは、高度なクラウドネイティブ・アプリケーション保護プラットフォーム(CNAPP)だ。多くの脅威に対し、高速かつ大規模に対応できる。
Prakash氏は、「当社が際立っていたのは、製品と過去1年間の力強い成長のおかげだと思う」と述べた。「成長率は10倍を超え、顧客基盤は4倍になった。Flipkart、Razorpay、Near Intelligenceなどの有力ブランドも顧客に含まれている。当社の『攻撃者インテリジェンス』もこのカテゴリーで強力な差別化要因となっており、より大手の既存企業を相手に常に案件を勝ち取っていた」
PrivacyHawk
資金調達日:2023年6月
調達額:270万ドル
カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)の施行が2020年に始まったとき、Aaron Mendes氏とJustin Wright氏は、消費者が自分の個人データがどこに存在するのかをすべて把握するのは難しいと気づいた。そのため、消費者がプライバシーの権利を行使することも難しくなる。
これがPrivacyHawkの着想となった。同社は、誰でも簡単に個人データを保護できるシステムを構築した。
それでも、資金調達のプロセスは決して容易ではなかった。PrivacyHawkのCEOであるMendes氏は、「多くの人脈作りと奔走、そして数百回のプレゼンテーションが必要だった。揺るぎない楽観主義と忍耐力が求められる」と述べた。「自分が何者で、何を売り込んでいるかにかかわらず、投資家の大半は案件の99%にノーと言う。だから、打たれ強くなければならない」
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