カリフォルニア大学アーバイン校の研究者らは、高DPIの光学式マウスセンサーで机の振動を検知し、周囲の音声を再構成するサイドチャネル攻撃「Mic-E-Mouse」を実証した。これにより、一般的な入力デバイスがひそかな盗聴装置へと変わる。
さらに攻撃者は、信号処理と機械学習によって音声の明瞭度を高め、注目すべき音声認識精度を達成できる。
この攻撃は、一般消費者向けマウスが高いサンプリングレートで振動による動きを捉えられることを示している。
机の上に潜む隠れた脅威
高精度マウス(多くは1万~2万DPI以上)がオフィスや在宅勤務の作業環境に広く普及しており、ポインターの更新を頻繁に要求する、レイテンシーに敏感なアプリやゲームで使われることも多い。
Mic-E-Mouse攻撃に必要なのは、通常のマウスパケットデータを収集する手段だけだ。無害に見えるゲームやクリエーティブアプリでもそれは可能であり、フィルタリングや再構成、機械学習による推論といった重い処理はすべてリモートで実行できる。
その結果、マイクやOSの同意ダイアログ、多くの従来型エンドポイント制御を回避する、ひそかな盗聴経路が生まれ、企業の攻撃対象領域は日常的な周辺機器にまで広がる。
研究者はいかにしてマウスデータを音声に変えたのか
UC Irvineのチームは、音声を再生しながら光学センサーから生の、ノイズを含む動きのレポートを収集した。こうした低品質の痕跡には、不均一なサンプリング、量子化、周波数応答の制約がある。
同チームの多段階パイプラインは、ノイズをフィルタリングし、サンプリングに伴うアーティファクトを補正したうえで、機械学習を適用して音声を再構成する。これにより信号品質を最大+19 dB改善し、情報収集に利用できるほど十分な音声認識率を達成した。
このエクスプロイトにOSのオーディオAPIへの特権アクセスは必要ない。必要なのは、HID/マウスパケットを列挙して送信する能力だけだ。
高忠実度マウスと、高周波入力を取得または転送できるソフトウェアを併用する環境は、潜在的に脆弱だ。対象には、企業のワークステーション、役員のデスクトップ、リモートワーク環境、ホームオフィスなどが含まれる。
そうした机の近くで交わされる機密性の高い会話――会議、認証情報に関する話、私的な通話――は、マイクにアクセスせずとも部分的に再構成される可能性がある。
盗聴される前にマウスをロックダウンする
防御側はMic-E-Mouseをデータ窃取の脅威モデルが横方向に拡大したものと捉え、階層化した制御を実装すべきだ。
- 利用可能なデータを減らす:業務アプリのポインター・ポーリングを妥当な頻度に制限するポリシーを適用し、高頻度のHIDサンプリングを要求するソフトウェアをブロックまたは精査する。
- アプリのテレメトリーとデータ持ち出しを管理:生のHID/デバイスパケットを送信するアプリを監視・制限し、ネットワークDLPを使って、外部エンドポイントへの異常なテレメトリーフローを検知する。
- エンドポイントを強化する:アプリケーションの許可リスト化、企業エンドポイント上で予期しないゲームやクリエーティブツールを制限する、より厳格なEDRルール、未審査の周辺機器を制限するUSBデバイス制御ポリシーを導入する。
- 物理的・手続き的な対策:振動を減衰させるマウスパッドを使用するか、高DPIマウスのある机から離れた場所で機密性の高い会話を行う。会議室や役員向けには、感度の低いマウスを支給することも検討する。
- ベンダーとの連携:周辺機器メーカーに対し、ファームウェアレベルでノイズやランダム化を導入し、OSが高頻度サンプリングを仲介できるようAPIを文書化するよう働きかける。
Mic-E-Mouseは、より大きなトレンドを浮き彫りにしている。センサーが安価になり感度が高まるにつれ、身近なデバイスが驚くべき情報経路から情報を漏えいさせる可能性がある。
セキュリティプログラムは、脅威モデルを拡張し、物理層のテレメトリーや、無害に見えるデバイスAPIを悪用する信頼できないソフトウェアも対象に含めなければならない。





